ミュージカル『黒執事』鑑賞ガイド＆古川雄大に訊く(2ページ目)

ミュージカル『黒執事』　セバスチャン・ミカエリス役・古川雄大さんインタビュー
“古川雄大という俳優にとって、代表的な役になればと思いながら演じています”

原作を知らなくても、一作だけ観ても楽しめるミュージカル『黒執事』
――古川さんにとってミュージカル「黒執事」はどんな作品ですか？

「原作のファンです。出演がきっかけで初めて読んだのですが、（出演する）“地に燃えるリコリス”編だけと思っていたのが、面白くて当時出ていた23巻くらいまで、一気に読んでしまったんですよね。もともとミステリーやサスペンスが大好きだったのもありますが、『黒執事』はストーリーが面白いし、前半に提示された謎が後半に向けてどんどん解決されていく様が素敵だと思います。それにキャラクターも魅力的で、すごく個性的な人たちばかりなので、読んでいると異次元に行けるんですよ。

以前の舞台版も観ていますが、その時もキャラクターがそれぞれに面白くて、作品に惹きこまれてしまいました。特に面白いキャラとしては、舞台版だと特に奇抜な（植原卓也さんが演じる）グレル（・サトクリフ）かな。ヒデちゃん（佐々木喜英さん）演じるドルイット子爵も魅力があります」

――本作は漫画が原作ということで、いわゆる“2.5次元ミュージカル” ととらえていらっしゃる方も多いようです。一般のミュージカルとはどう違うと感じていらっしゃいますか？

「2次元である漫画のファンの方々も満足していただけるよう、原作に近づける要素が多いのが2.5次元ミュージカルかと思っています。ただ、ミュージカル「黒執事」に関して言うと作品を知らなくても楽しめますし、一つのミュージカル作品としてキャストスタッフで作り上げていますので、シリーズの中で今回だけ御覧になっても満足してもらえるんじゃないかな」

――“原作に近づける”という意味では、例えばキャストの方が髪型や体型を“寄せる”ということをよく聞きます。

「セバスに関して言うと、体型は細長ければ細長いほうがいいと思うので、がちがちの筋肉は要らないと思っています。最低限の筋肉を保つための筋トレは稽古場でしていますが、それ以外はやっていませんね。でも執事らしく背筋を常に伸ばすとか、姿勢や物腰には注意しています。

ファンの声はもちろん気になりますよ。だからどうするというわけじゃないけど、ある程度お客様の中でもセバス像が明確にできてると思うので、期待は裏切りたくない。そういう気持ちが作品のクオリティを上げるんじゃないかと思っています」

“俯瞰”を意識しながら悪魔を演じる
――ミュージカル「黒執事」シリーズにはこれまで「地に燃えるリコリス」編と「NOAH’S ARK CIRCUS」編と2作に出演されていますが、演じるセバスチャン・ミカエリス（セバス）をどういう役ととらえていますか？

「悪魔ではあるんですけど、僕にとっては“共感できる”部分がたくさんある悪魔です。例えば彼はいつも人間たちの愚かさや世の中を見下ろしていますが、僕ら人間もふと、世の中を客観的に見ることってあるじゃないですか」

――若いうちは自分以外には意識が行き届きにくいものですが、皆でモノづくりをする俳優というお仕事柄、古川さんはとりわけ“俯瞰する”ことを意識されているのかもしれませんね。

「もちろん僕も周りが見えないことも多いけれど（笑）、確かにここ数年、（主役として）そういう位置に起用していただいているので、全体をしっかり見ないといけないと意識はしていますね」

――松下優也さんが演じた初代セバスとの差別化は意識されていますか？

「良い意味でしていないですね。松下さんの舞台も拝見させていただきましたが、その時はまだ（次に）僕が演じることになるとは思っていなかったので。“どう演じてるのかな”とそこばかり集中して観る必要がなかったので、よかったと思っています。出演が決まってからは、あえて違う方向に行こうと意識したりしないよう、過去映像などは観ず、原作から自分のセバス像を作り上げていきました」

セバスという存在が与える恐怖、不安を大切にしています

――では、古川さんの作るセバスはどんなキャラクターですか？

「僕が原作を読んだ時に感じた“恐怖”、どこかにじっと潜んでいる不安みたいなものを与えられたらと、そこを強く意識しています。例えば海外旅行をしていると、（故郷の）日本じゃないからどこか落ち着かなかったり、不安じゃないですか。セバスは（ご主人の）シエルを必死に守ってるけど、実は最終的には彼を殺して魂を食うという契約を結んでいるわけで、その前提があるから、どこを読んでいてもすごく恐ろしく感じます。その感覚を大切に、自分が演じる時にもしっかり表現したいなと思っています」

――シエルに対しては絶対服従する一方で、なんとなく愛情も感じているようにも想像していましたが……。

「と感じますよね。でも、意外にそれは無いと思います。冒頭に出会った当時のことが描かれていて、そこに（セバスには）人間的な感情があるのかなと思わせる描写があるんですが、でもやっぱり（愛情は）無いんですよ、きっと（笑）」

――人間ではないものを演じる気分というのは、どういうものですか？

「どこか不安ですよね。不安というか、正解が分からないじゃないですか。だから自分をしっかり持ってないとダメだな、“自分はこう”というものが確実に見つかるよう努力しています。セバスは人間ではなく悪魔なので、その内面というのは（本質的には）分からないですよね。例えばテレビ番組で動物の行動を“こういうふうに思ってる”と解説している場面があるけど、本当のところ、その動物がどう思っているかなんてわからないじゃないですか。そういう感じなんじゃないかな」

――そういうお役を確信を持って演じられるようになるには、何が大切だと思っていますか？

「やっぱり客観的な視線かな。最新作は特に客観性が強くて、これまでで最も昇華されているような気がします」

前作ではシリアスな内容を彩るポップな曲調が新鮮でした
――お話はちょっと戻りますが、これまで演じた2作品はどんな体験でしたでしょうか？

『ミュージカル「黒執事」‐地に燃えるリコリス2015-』は再演だったので、ある程度（舞台が）完成していて、僕以外はほぼみんな台詞も入っている状態での参加でした。自分では比較できないけど、また新しい色の作品になったんじゃないかな。

そして次の『ミュージカル「黒執事」～NOAH’S ARK CIRCUS～』は一から作ることが出来て、やっとカンパニーに参加できたかなという気持ちになりましたし、作品自体、キャストが半分入れ替わったのと作曲家が（和田俊輔さんに）替わったので、また一つカラーの違う『黒執事』になったんじゃないかと思います。

今回は、その“サーカス”編と作曲家は一緒なんですけど、演出家の児玉さんはじめ、新たに参加するスタッフさんもいらっしゃいますし、キャストも半分くらい新しく参戦いただくので、どんな感じになるんだろうと楽しみです」

――“サーカス”編では作曲家が替わったことで、空気感はだいぶ変わりましたか？

「だいぶ変わりましたね。でもそれが“サーカス”編ではよかったんじゃないかなと思っています。それまで、ミュージカル「黒執事」といえば重厚感のある音楽が印象に残っていたけど、いい意味で重さがなくなって、ポップになりました。内容的にも“サーカス”編は（『黒執事』の）どの作品と比べても重たいテーマなのですが、サーカスって不気味さがある世界じゃないですか。そこに華やかな音楽が組み合わされる、その違和感、どこか気持ちが悪い感じが（この音楽によって）すごく出ていたと思うんです。初めて聞いた時、“来た！”と思いましたね」

――“サーカス”編は虐げられた人々が報われない物語で、人間社会の歪みというか、不条理さが強烈な内容でしたね。

「それこそがリアル（な人間社会）なんだと僕は感じました。その不条理さを（まだ少年である）シエルが知り、どんな影響を受けていくのか……という、物語としての一つの美学を感じました。簡単なハッピーエンドより、衝撃的な内容のほうが心に残るし、僕自身、その後ずっと考えますね。浄化されないというか、作品のことがずっとひっぱります」

最新作は見どころ満載、人気キャラクターも“帰って”来ます
――では最新作はどんな方向性になりそうでしょうか？

「今回は動く死体が出てきたり、葬儀屋や死神達との四つ巴の対決がありますが、前回ほどの重さではないような気がします。勧善懲悪的ではあるけれど、でもだいぶ（たくさんの人が）死にますね。今はまだ稽古が始まっていなくて、台本を読んだだけなのですが、終盤のシエルに対する台詞でまだ読み解けないところがあります。どういうニュアンスなんだろう、と今考えているところです」

――シエル役の内川蓮生さんは“サーカス”編からの続投ですが、前作ではすさまじい熱演でした。当時は何歳だったのでしょう？

「13歳でしたね。子役と絡む機会はそれまでもありましたが、あれほど直接組む芝居はなかったので、彼とはお互い刺激し合いました。いや、実際刺激は受けます。彼を見ていると、本来お芝居って楽しいものなんだと改めて思えるんですよ。

例えば難しいところがあると、僕なら相当追い込まれちゃうけど、彼は（内面では）悩みながらも、その段階も、そこをクリアすることも楽しんでいて、お芝居は楽しいものだと言うことを大前提にしないとダメなんだと感じます。

あとは稽古場での居方というか、コミュニケーションの取り方というか、一人一人に丁寧に対応していて、結果的にとてもかわいがられていて、素敵なんですよ。僕からも何か影響を受けていることがあるのかな。あったらいいと思うし、前回は千秋楽までの間でものすごく成長していたので、今回また組ませてもらうなかで、稽古初日から彼の中に新たな発見をしていくんだろうなと思います」

――見どころはどのあたりになりそうでしょうか？

「このミュージカル「黒執事」シリーズは、漫画の世界観を忠実に再現していることが一番の魅力かなと思います。その中で今回は、アンダーテイカー（葬儀屋）というキャラクターの見せ場がたくさんあるだろうし、卓也（演じるグレル）やヒデちゃん（演じるドルイット子爵）が帰ってくるのが見どころで、『黒執事』ファンにとっては待ちに待った作品だと思います」

――動く死体がいっぱい出て来るお話なので、キャストもかなり多そうですね。

「アンサンブルの方は前回の倍いらっしゃいますね。アクションも激しくやってくださると思います」

――豪華客船内での出来事なので、『タイタニック』プラス、ゾンビ・パニック映画のノリといった感じでしょうか？

「それでお願いします！(笑)」

――『サーカス』編が昨年、『地に燃えるリコリス』編が一昨年。こんなに短いインターバルで一つの役を別作品で演じていらっしゃる方も珍しいと思います。

「そうですね。確かに『エリザベート』のルドルフを、演じた1年後に再演したことはありましたが、あれは同一作品でしたからね。まずはここで全力を尽くして作品に思いをぶつけていきたいと思ってます。いろいろやってきた役の中でも、（古川雄大という俳優にとって）代表的なものになればいいなと思いながらやっています」

＊公演情報＊
『ミュージカル「黒執事」Tango on the Campania』2017年12月31日～2018年1月14日＝TBS赤坂ACTシアター、1月19～22日＝神戸国際会館こくさいホール、その後愛知、石川、福岡を巡演

＊古川雄大さんのその他の出演作についてのインタビューはこちら

＊次頁で『ミュージカル「黒執事」Tango on the Campania』観劇レポートを掲載しています！