着物・着付け

プロが見る、小池百合子の着物姿の心意気とは

リオ五輪閉会式での小池百合子東京都知事の着物が話題です。自前の着物が雨でずぶ濡れ? 着物の値段や価格は?着付けがヘン?など、ネットで話題の疑問に着物の専門家の目線で答えます。

黒柳 聡子

執筆者:黒柳 聡子

着物・着付けガイド

東京都知事が着物でリオ五輪閉会式に

連日熱戦を繰り広げた、2016年リオデジャネイロ五輪も華やかなフィナーレと共に幕を閉じました。ニュースやネットでは最終日に行われた閉会式での様子がさまざまな話題として取り上げられていますが、着物ガイドとしては、小池百合子東京都知事の着物の話題は見逃せません。

写真:AP/アフロ

リオ五輪閉会式での小池百合子東京都知事。写真:AP/アフロ


小池氏は、「日本のおもてなしを最大限に象徴するもの」として和装で出席し、リオでのおもてなしの心を表現したと述べました。着物姿で旗を振る姿は、まさに「雨にもマケズ」。日本人としての“勝負服”で海外に挑む姿は、とても感動的にうつりました。

海外の場に出る際、着物は私たち日本人のアイデンティティー、文化を伝えるツールとして、最適であるということは、海外経験のある人ならば誰もが感じていることです。

しかし、今まで五輪という世界が注目するイベントで、公に着物が活用される事は実は多くはありませんでした。実際、政治家など日本を代表しての来賓時に、着物を着ているという姿はあまり記憶にありませんよね。それは日本の男性社会を物語っているとも言えますが、今回、初の女性知事である小池氏が「日本の勝負服!」として、自前の着物を選んだ――さすが海外経験が豊富な知事ならではの選択です。それだけでも、小池知事が都知事になられた意味があったとすら思います。また、着物が日常でない今という時代に合った着物の活用法として、とても良いお手本になったのではないでしょうか。


小池百合子さんの着物の格や価値は? 着付けは?

ところで、あの着物姿について、一部から「ちょっと地味すぎない?」「着付けがヘン?」などと言う意見があるようです。

確かに、五輪閉会式というイベントなのだから、「もう少し華やかなものを」という気持ちもあるかも知れませんが、小池氏の年齢、そして東京を代表する立場ということを考えれば、精いっぱいではないかと思います。ガイドとしては、あまり華美にしすぎず、トータルで見ると、かえってとても品良くコーディネートされていたのではと思います。

また、遠目だからこそ淡い色合いでしたが、実際、間近で見れば存在感がわかる物だと思います。もちろん、間近では見ていないのですが、いいものほど奇抜よりベーシック、でも、オーラがあるもの。

「では、いくら相当の品だったのか」という議論もされていて、ネット上では「1000万円以上ではないか」とも言われていましたが、実のところ私たち着物の専門家でも、正確には分かりません。しかも、手に取ったり、間近で見たわけではないので、不確かなことは言えない、というのが正直なところです。

ただ、着物の格について、モニター越しの情報であることを前提にご説明すると、おそらく訪問着、色留袖のどちらかではないでしょうか。

判断基準としては、比翼と紋の数。比翼が付いているのであれば色留袖、そうでなければ訪問着、前に2つ後ろに3つの紋が入っているのが、最高ランクの五つ紋付きですが、前から見ると紋が見えないようなので、三つ紋の色留袖(一つ紋や紋のない色留袖は少ないため)、もしくは、紋を入れない訪問着という可能性もあり、判断がつきにくい状況ではあります。

また、鶴はおめでたい縁起物で、結婚式の花嫁さんの打掛などに使われるような格の高い着物に多い柄です。金の鶴の刺繍があしらわれた訪問着(か、色留袖)に、キラキラの金の帯という、手の込んだ良いものをあわせてコーディネート。えてして色柄が奇抜でなくとも、オーラを放つものであるという見本だったのではないでしょうか?

また、ご自分で着られたかどうかは不明ですが、着物の着方として「帯が高すぎる」「後ろが抜けていない」「衿が詰まりすぎている」というような意見があり、確かに……と思うところもありましたが、そんなことよりも、あの大舞台で着たことに意味があると思っています。実際、現地や海外での反応は上々でしたよね。


私物の着物がずぶ濡れ! ケア方法の「洗い張り」って?

そしてもうひとつ、一番の話題としてあの雨の中ずぶ濡れになる姿が映し出され、「着物は大丈夫なの?」と心配された方々も多かったと思います。

通常、絹の着物は汚れが酷い場合には、脱いだ後速攻、間髪入れずに専門のクリーニングに出します。それほどの汚れでない場合には、シミ抜きという方法もありますが、あの状態からすると、洗い張り(着物をいったんほどいて水洗いした後、竹ひごや張り板に張り、糊付けしてシワを伸ばしながら乾かしていく方法)ということになると思います。

ふだん皆さんが着物を着る際に、あそこまでずぶ濡れになるというような事はないとは思いますが、着る頻度によって、是非1~3年に一度くらいは洗い張りをして、メンテナンスを行うことをオススメします。また、ゲリラ豪雨や台風の多いこれからの季節。お天気があやしい時には是非準備は万端にしてくださいね。

――2020年東京での五輪に更なる期待を込めて。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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