ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.31 湖月わたる、「夢中」を重ねて(6ページ目)

ブロードウェイで歴代2位の上演記録を誇る人気ミュージカル『シカゴ』。いよいよ始まったその来日公演で、シャーロット・ケイト・フォックスさん(『マッサン』)ともども話題を集めているのが、スペシャル・マチネでヴェルマ役を演じる湖月わたるさんです。大きな夢がついに叶う瞬間を前に、高鳴る胸の内、そしてこれまでの歩みをうかがいました!*観劇レポートを掲載しました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

『CHICAGO』観劇レポート
洗練された独自のダンス・スタイルに
「不自由な社会の中で精一杯自由に生きる」人間たちの姿を重ね合わせた
ダンス・ミュージカルの金字塔

『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

中央に階段型のオーケストラピットを置いた、黒い空間。その中央には俳優の出入り口があるものの、オケピの手前と左右に限られたアクティングスペースは通常のミュージカルと比べて格段に狭く、初観劇の観客は「ここでどんなダンスを展開するのだろう」といぶかしく思うかもしれません。

しかし演奏が始まってダンサーたちが現れると、観客の視線はたちまち彼らの動きに引き寄せられます。露出度の高い、あるいは体のラインを強調した衣裳をまとった彼らは後ろ手にした両手をゆらゆらさせるポーズを基本に、スタイリッシュだが日常的には行わないポーズを次々繰り出し、肩や胸、足の筋肉の動きをとくと見せる。オリジナル振付家のボブ・フォッシーが生み出した、人間の肉体の美しさをクローズアップするかのようなこの独特の「フォッシー・スタイル」ダンスが、まずは目を奪います。
『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

物語の舞台はシカゴの監獄。6人の女囚たちはそれぞれに「自分をコケにした」男を殺した罪に問われていますが、その一人、ヴェルマは腕のいい弁護士ビリー・フリンをつけて無罪を勝ち取り、有名人としてショーを行う算段。しかしそこに新たな女囚ロキシーが登場、スキャンダラスな彼女のストーリーが一躍注目を浴びることで、ヴェルマは危機感を募らせる…。
『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

殺人に堕落に裏切り、金銭欲と、インモラルな要素に満ちた本作は「悪漢小説」的な痛快さを持つものでもありますが、ここにフォッシー・ダンスが加わることで、舞台には大きな枠組みが与えられます。先述したフォッシー・ダンスの基本ポーズは、「後ろ手」をしながらの腕と手のゆらめきであり、つまりは「拘束」と「自由」の同居を象徴したもの。ダンサーたちが自由に、魅力的に動けば動くほど、本作は「制約された社会」の中で「精一杯自由に生きる」人間たちの精神の象徴であることが強調され、20年代シカゴの悪徳ドラマを普遍的な寓話へと昇華させてゆくのです。
『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

これまでにも回を重ねている来日版『シカゴ』ですが、今回はとりわけ親しみやすいキャスティングが、このテーマを鮮やかに浮かび上がらせます。ロキシー役のシャーロット・ケイト=フォックスさんはスキャンダルのヒロインとして登場以降終始溌剌、その理由が「否定され続けた半生」への反動であることも印象付けつつ、天真爛漫に野心を追った結果としての「悪女」を、生き生きと体現。筆者の両隣は明らかに(『マッサン』の)“エリーさん目当て”のご高齢カップルでしたが、日本語のアドリブも差し挟む彼女のお茶目な姿に引き込まれ、初の海外ミュージカル体験も存分に楽しんでおられました。
『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

対するヴェルマ役は「不動のヴェルマ」役者ことアムラ・フェイ=ライトさん、マチネ・スペシャルでは湖月わたるさん。来日公演で既に何度もお目見えし、日本の観客にもお馴染みのアムラは歌にダンスに、抜群の安定感で余裕綽々の“姉御”っぷりですが、そんなヴェルマが新入りの小娘ロキシーにお株を奪われ、慌てる様をユーモラスに、楽しげに演じています。対する湖月さんはアメリカ人キャストにひけをとらない長身と元・宝塚トップスターならではの華やかさが生き、ロキシーが登場するまでは「世間の注目を一身に集めていた」女囚スターという設定に説得力をプラス。英語の台詞も滑らかで、インタビューで語っていらっしゃった地道な努力が報われていることに、同じ日本人として誇らしさ、嬉しさを感じずにはいられません。また湖月さんが出演する「スペシャル・マチネ」にはロキシーの不倫相手フレッド・ケイスリー役で大澄賢也さんが出演。過去にも『シカゴ』に出演し、日本におけるフォッシー・ダンスの第一人者と言われる彼はベテランとは思えないしなやかな動きでカンパニーに溶け込み、観る者を唸らせます。
『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

『CHICAGO』撮影:RYOJI FUKUOKA

インモラルな物語の果てに現れるのは、一面の眩い世界。そこでヴェルマ&ロキシーが歌う一見、享楽的な歌詞には、人々が劇場に求める理想が集約されているようでもあり、またこのきなくさい時代においては「決して手に届かない夢」に言及しているようでもあり。ゴージャスな幻惑感のなかにもどこか切なさの漂う、「大人のエンタテインメント」となっています。


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