ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2014年7~8月の注目!ミュージカル

湿度も気温も高いこのごろ。こんな折には、劇場で涼むのが一番です!この夏の開幕作品から、特に見逃せない『ジーヴス』『ブリング・イット・オン』『ひめゆり』『EMPIRE』『ジョン万次郎の夢』『ヴァンパイア』『唄のある風景』『ショーガール』『VAMP』『赤毛のアン』と、ミュージカルシーン満載の新作映画『マイ・リトル・ヒーロー』をご紹介。随時観劇レポートも追加掲載していますので、お楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

いよいよ夏も本番!7~8月はコミカルな作品から爽快な青春物語、大人のカップルにぴったりのエンタテインメントに命の尊さを改めて考える作品まで、期待の舞台が続々と開幕。加えて、映画館でもミュージカルが題材の佳作が登場します。会場内は温度設定が低めのところが多いので、羽織りものなどもお忘れなく。涼やかな劇場ライフを、大いに楽しみましょう!

7月開幕の注目!公演
『ジーヴス』7月4~13日=日生劇場←観劇レポートup!
『ブリング・イット・オン』7月9~27日=東急シアターオーブ←観劇レポートup!
『ひめゆり』7月17~22日=シアター1010←観劇レポートup!
『EMPIRE』7月18日~9月15日=品川プリンスホテルClub eX←観劇レポートup!
『ジョン万次郎の夢』7月19日~8月17日=四季劇場「秋」、その後京都、全国巡演←観劇レポートup!

7月公開の注目!映画
『マイ・リトル・ヒーロー』7月12日よりシネマート六本木、シネマート心斎橋ほかにて順次上映

8月開幕の注目!公演
『ヴァンパイア~愛と憎しみの果て~』8月10~27日=Bunkamuraオーチャードホール←観劇レポートUP!
『唄のある風景』8月20~24日=木馬亭←観劇レポートUP!
『ショーガール』8月21日~9月14日=パルコ劇場←観劇レポートUP!
『VAMP ~魔性のダンサー ローラ・モンテス~』8月24日~9月8日=EX THEATER ROPPONGI←観劇レポートUP!
『赤毛のアン』8月31日~9月28日=自由劇場←観劇レポートUP!

AllAboutミュージカルで特集(予定)の公演
『ブラック メリーポピンズ』7月5~20日 Star Talkにて、出演・一路真輝さんへのインタビュー&観劇レポートを掲載!
『ミス・サイゴン』7月25日~8月26日 Star Talkにて、出演・原田優一さんへのインタビューを掲載!
『タイトル・オブ・ショウ』8月1~11日 Star Talkにて、出演・浦井健治さんへのインタビューを掲載!
『ONE- HEART MUSICAL FESTIVAL 2014夏』8月16~27日 Star Talkにて、出演・大和悠河さんへのインタビューを掲載!

Pick of the Month 『ジーヴス

7月4~13日=日生劇場

『ジーヴス』

『ジーヴス』

【見どころ】
アンドリュー・ロイド=ウェバーの75年の作品(96年に『By Jeeves』のタイトルで改訂)として知られながら、なかなか日本で上演される機会のなかった『ジーヴス』が、満を持して登場することになりました。物語の舞台は、英国のとある教会。貴族のバーティーがチャリティイベントでバンジョーを弾こうとしたところ、肝心のバンジョーが無い! どうしようと執事のジーヴスに泣きつくと、即興劇を演じたらということになります。かくして、バーティーが友人たちの恋を取り持つ顛末が、教会のスタッフをも巻き込んで描かれることに。彼らは果たして無事演じおおせることが出来るのか?

上流社会の物語でありつつ、いかにも英国らしい、セリフや事件が畳みかけてくるドタバタ喜劇とあって、日本での上演は難しいかもと思われていた本作ですが、今回はそれをキャスティングで解決。翻弄される主人公役に柔軟性のある二枚目、ウエンツ瑛士さんが扮するいっぽうで、なだぎ武さん、つぶやきシローさん、エハラマサヒロさんといった笑いのプロが参加。そこに右近健一さん、樹里咲穂さん、モト冬樹さんらコメディセンスに定評のある実力派俳優が加わり、さらには「どんな時でも頼れる」天才執事ジーヴスを里見浩太朗さんが演じることで、ぐっと重厚感が増す模様です。『ジーヴス』は英国人なら誰でも知っているといわれる超・有名小説。ロイド=ウェバー・ファン、英国ファンはもちろん、ミュージカルファンならぜひともおさえておくべき公演となりそうです。

【稽古場見学会レポート】
6月22日にオーディエンスも交えて行われた稽古場見学会。はじめに演出家の田尾下哲さんから「ジーヴスはどんな時でも頼りになるキャラクターで、日本で例えるならドラえもん」というわかりやすい解説があり、続いて劇中劇という設定ゆえの、手作り感溢れる小道具や、訳あって次々壊れてゆくセットの仕掛けを一部紹介。観客の興味が高まったところで、ウエンツさん演じるバーティーと、なだぎさん演じるアメリカの食品会社の御曹司が出会うシーンが披露されました。フランクなアメリカ人らしく、ハイタッチを求める御曹司に対して、バーティーはその手をさらに上から持ち、英国人貴族らしく挨拶。フレンドリー過ぎるアメリカ人とそれに当惑する英国人のギャップが、サービス精神旺盛ななだぎさん、ウエンツさんのアドリブに彩られながら描かれ、場内には笑い声が響きました。披露の後には高橋愛さん、樹里咲穂さんも挨拶に加わり、高橋さんは「英国のコメディを日本のお客様に楽しんでもらえるよう、皆で相談しながら稽古しています」とコメント。英国喜劇がうまく日本の笑いに翻訳されている様子がうかがえ、本番への期待がいや増すひとときとなりました。
『天才執事undefinedジーヴス』撮影:渡部孝弘

『天才執事 ジーヴス』撮影:渡部孝弘

【観劇ミニ・レポート】
劇中劇として再現されるエピソードは、バーティが友人たちの恋の成就のために奔走し、巻き起こったてんやわんや。これだけ献身的な働きをしたのであれば強烈に覚えているでしょうに、このバーティ、けっこう記憶が曖昧で再現しながら「あれ?ジーヴス、こうだったっけ?」と何度も確認しています。この台詞を聞いて筆者が思い出したのが、以前、某・英国上流階級の方とやりとりをしていて、「送るよ」と言われたものがいっこうに届かなかったこと。ミドルクラスの方に話したところ、「貴族って忘れっぽいのよ」と説明しながらフォローしてくれたのでした。
『天才執事undefinedジーヴス』撮影:渡部孝弘

『天才執事 ジーヴス』撮影:渡部孝弘

こういう、貴族のちょっと「抜けている」側面の描写をとっても、頑張ったバーティが最終的に何かを得るわけでもなく、さらりと終わるという筋立てをとっても、いかにも「英国風」な作品であるにもかかわらず、今回の舞台は見事なまでに日本的。「振り回される主人公」のテンションを終始、保ち続けたウエンツ瑛士さん、優雅な身のこなしで「頼れる執事」を体現する里見浩太朗さんほか、カラフルな出演者がそれぞれの個性を発揮しつつも、清々しいほどの団結力でスムーズに劇中劇を進行させているのです。その象徴と言えるのが、バーティと友人たちによる、本作の主題歌的なナンバー「ジーヴスに訊け」。サビ以外はほぼすべての歌詞を一フレーズずつ、3人がかわるがわる歌うという「込み入った」曲ですが、演じるウエンツさん、つぶやきシローさん、エハラマサヒロさんの息はぴたりと合い、あちこち動きながらも途切れることなく、ほのぼのとしたジーヴス讃歌として聞かせてくれます。(これと同スタイルのナンバー『ハロー・ソング』でのウエンツさん、つぶやきシローさん、なだぎ武さんのチームワークも素晴らしく、自然に拍手喝采が起こるほど)。舞台を観ていると時折「このカンパニー、仲が良さそう」と心から思える作品に出会いますが、本作はまさにそう。人が集い、芝居をすること、そしてその姿を観ることの喜びを純粋に味わわせてくれる、この夏のクリーンヒットだと言えましょう。

ブリング・イット・オン

7月9~27日=東急シアターオーブ

『ブリング・イット・オン』Photo:Katsuyoshi Tanaka

『ブリング・イット・オン』Photo:Katsuyoshi Tanaka

【見どころ】
これまでありそうでなかった、アメリカ発祥の華やかな文化「チアリーディング」を題材としたミュージカル。2000年の同名映画に想を得て『アヴェニューQ』のジェフ・ウィッティが脚本を、『イン・ザ・ハイツ』のリン・マニュエル・ミランダや『ネクスト・トゥ・ノーマル』のトム・キットらが音楽を担当しました。チアリーディングの全米選手権を目指して努力する少女たちの青春を生き生きと描き出し、ブロードウェイでは2012年に上演、トニー賞作品賞にノミネート。ミュージカル俳優はもちろん、全米トップクラスのチアリーディング選手たちも多数出演し、人間ピラミッドをはじめとする難易度の高い技が次々繰り出されるのも見どころ。暑さを吹き飛ばす、爽快かつ華々しい舞台に出会えそうです。

『ブリング・イット・オン』撮影:阿部章仁

『ブリング・イット・オン』撮影:阿部章仁

【観劇ミニ・レポート】
チアリーディングに情熱を傾けていたヒロインがとある「陰謀」により、悪名高い「不良校」に転校。はじめはのけ者にされるものの、そのひたむきさで少しずつ生徒たちに溶け込み、ついにチアリーディング部を創設して全米大会を目指す……。ヒップホップとロックを巧みにブレンドした音楽に導かれ、ダイナミックなチアリーディング演技もふんだんに織り込みながら、物語は「人生で本当に大切なことは何か」を知ってゆく高校生たちの、きらめくような日々を描き出します。

『ブリング・イット・オン』撮影:阿部章仁v

『ブリング・イット・オン』撮影:阿部章仁

クライマックスは、全米大会での「不良校」のパフォーマンス。メンバーたちの「私たちは“ダメ”人間なんかじゃない、“違う”だけだ」という心の叫びが凝縮されたこの数分間は、よく練られた構成と熱い演技とがあいまって、本作が伝えようとするメッセージに強い説得力を持たせています。ヒロインはじめ、モデル体型には程遠い健康的な容姿の出演者が少なくないのも、リアルで好感度・大。客席には小学生、中学生の女の子とそのママも多く見受けられましたが、「今・青春真っ只中」の層はもちろん、「青春?懐かしいな」という層にとってももう一度、「自分はどう生きたいか」を確認できる、爽やかな舞台です。

ひめゆり

7月17~22日=シアター1010

『ひめゆり』

『ひめゆり』

【見どころ】
96年の初演以来上演を重ねている、ミュージカル座の代表作『ひめゆり』。第二次世界大戦末期、ひめゆり学徒隊の名で女子学生たちが従軍看護婦として戦争に駆り出され、その多くが犠牲となってゆく姿を、オリジナル・ナンバー全41曲で描きだします。9演目となる今回の公演には、主人公キミ役で神田沙也加さん、上原婦長役で沼尾みゆきさん、檜山上等兵役で松原剛志さん、滝軍曹役で阿部裕さんらが出演。死と隣り合わせになりながらも懸命に生きた少女たちの姿を通して、戦争の残酷さ、平和の尊さ、そしてかけがえのない生命を、改めて胸に刻む舞台となりそうです。

【観劇ミニ・レポート】
初演以来、再演の度に手を入れ続けているということで、「無くてもいいかも」という要素は一切無く、最後まで緊迫感が持続。よく練りあげられた作品であるばかりでなく、出演者、とりわけ女学生たちの渾身の演技が大きく貢献している舞台です。布(座内での通称は「換気布」)を手に、軍人を揶揄する「鬼軍曹」などでの一糸乱れぬ群舞、息の合った透明感あるコーラス。戦争を語り伝える責任を意識し、真摯な姿勢で取り組んでこその成果でしょう。

『ひめゆり』写真提供:ミュージカル座

『ひめゆり』写真提供:ミュージカル座

キミ役は12年の公演以来二度目という神田沙也加さんは、可憐さと張りを併せ持つその歌声としっかりとした“居方”が、あまたの死を目撃し、“生きる”ことに目覚めてゆくキャラクターにぴたりとはまり、滝軍曹役の阿部裕さん、檜山上等兵役の松原剛志さんも、最前線で戦ううち人間性が疲弊してゆく様を、生々しく表現。ゆき(この日のキャストは水野貴以さん)が清らかな声で歌う「小鳥の歌」は、はじめ“生”へのわずかな希望を歌っているように聞えますが、なかほどで“死”による解放を歌ったものであることが分かり、胸えぐられるような思いに。檜山は一幕で「もう一度生まれたら、戦争を知らない世界に行きたい」と歌いますが、それから69年後の今も地球のあちこちで紛争が起こり、多くの人が命を落とす現状がよぎり、複雑な心境になった方も多いのではないでしょうか。来年夏の再演も決定しているそうです。

EMPIRE

上演中~9月15日=品川プリンスホテルClub eX

『EMPIRE』セクシーな衣裳でアクロバットを見せる「ゴリラ・ガールズ」の3人組。

『EMPIRE』セクシーな衣裳でアクロバットを見せる「ゴリラ・ガールズ」の3人組。

【みどころ】
ジャンルとしては「シルク」、つまりサーカスを中心としたエンタテインメント・ショーですが、ミュージカルファンにも見逃せない要素があるためご紹介します。2006年にNYで始動したカンパニー「スピーゲルワールド」が第二弾として発表した本作では、青山円形劇場より近い?というほどこぢんまりとした円形シアターで、「大人のためのシルク」を展開。注目したいのが、サーカス・アクトと共演し、時にソロで歌う歌手のミス・パープル役です。演じるヴィクトリア・マットロックさんは、『ウィキッド』北米ツアーで主役エルファバを演じていたミュージカル女優。大劇場でエルファバを歌っていた俳優の発声を、間近で聴く絶好のチャンス!見逃せません。

『EMPIRE』ミス・パープル役のヴィクトリア・マットロックさん。

『EMPIRE』ミス・パープル役のヴィクトリア・マットロックさん。

【観劇ミニ・レポート】
水先案内人はオスカー&ファニーの夫婦コンビ。ニューヨーカーのイメージが一新されるほどエッチで、おバカで、突き抜けた2人のお笑いが差し挟まれながら、わずか直径3メートルの舞台に次々とパフォーマーが登場します。ミラーボールのように回転し続ける透明球の中でバランス技を見せたり、「失敗したらこちらに飛んでくる?!」とはらはらさせながら、ローラーコースターの男がパートナーを抱きかかえ、超高速でスピンしたり。スリリングな技の連続で楽しませると、最後は一本の羽に無数の枝を足してゆくという原始的な、けれど非常な集中力を要するバランス技で哲学的な空間を創りだし、クライマックスに。様々な意味で「大人」なショーはあっという間にフィナーレとなります。このクライマックスでヒーリング・ミュージック風にスキャットを聴かせたかと思えば、ロック、ポップスを歌う場面では押しの強い幅広の声(業界用語ではベルティング・ヴォイス)で観客を引き込むのが、ミス・パープル役のヴィクトリアさん。その変化ぶりは小気味よく、彼女の起用が、ショーに「ただものでない」感を付け加えています。

*次ページ以降で『ジョン万次郎の夢』、映画『マイ・リトル・ヒーロー』、8月開幕の『ヴァンパイア』『唄のある風景』『ショーガール』『VAMP』『赤毛のアン』をご紹介しています*
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