世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

ラヴェンナの初期キリスト教建築物群/イタリア(2ページ目)

約1500年前の輝きをそのままいまに伝える「永遠の絵画」モザイク。ビザンツ芸術最高峰のモザイクが残るのが「モザイクの都」ラヴェンナの教会群だ。金を多用した豪壮なモザイクから、星々や動植物を描いた癒しのモザイク、聖人や皇帝を描いた歴史的なモザイクまで、多彩な意匠で人々を魅了する。今回はイタリアの世界遺産「ラヴェンナの初期キリスト教建築物群」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

ラヴェンナの歴史 前編 ~ローマ帝国の滅亡

ガッラ・プラキディア廟のモザイク

ガッラ・プラキディア廟のモザイク。十字架を持っているのはスペインの聖職者ウィンケンティウス。植物紋をあしらったデザインはキリスト教芸術というよりギリシアやペルシア的だ

ラヴェンナは5~6世紀に最盛期を迎えるが、このたった2世紀の間に宗主国が「ローマ帝国→西ローマ帝国→オドアケル王国→東ゴート王国→ビザンツ帝国→ランゴバルド王国→フランク王国→ローマ教皇領」と目まぐるしく変わる。ラヴェンナは嵐のような混乱の中で繁栄し、嵐が去るとともに没落した。その歴史を見てみよう。

ラヴェンナはもともとクラッシス(現在のクラッセ)と呼ばれた小さな港町。ローマ時代に軍港として整備され、ローマ海軍の拠点となった。

ガッラ・プラキディア廟

ガッラ・プラキディア廟。ギリシア十字形で、東西・南北ともに16~17mほどしかない非常に小さな廟堂

ゲルマン民族の大移動を受けてローマは国を保てなくなり、395年に皇帝テオドシウス1世は帝国をふたつに分割して息子に分与。こうしてローマ帝国はミラノを首都とする西ローマ帝国と、コンスタンティノープルを首都とする東ローマ帝国=ビザンツ帝国に分裂する。

402年、ゲルマン系西ゴート人の侵入に対して、西ローマ皇帝ホノリウスは海軍が駐留するラヴェンナへ遷都。防御を固めてラヴェンナに籠城する。しかし西ゴート人の侵入はおさまらず、410年にはローマを攻略されてしまう。こうした混乱に乗じ、476年にゲルマン人傭兵隊長オドアケルが皇帝ロムルス・アウグストゥスを廃位すると(西ローマ帝国の滅亡)、ラヴェンナを首都にオドアケル王国を建国する。

 

イタリア奪還とローマ帝国領の再興を目指すビザンツ皇帝ゼノンは、ゲルマン系東ゴート人・テオドリックにオドアケル攻略を打診。テオドリックは493年にオドアケルを倒すと、ヴェローナを拠点にそのまま東ゴート王国を建国・独立する。

ラヴェンナの歴史 後編 ~栄光と没落

サン・ヴィターレ聖堂のモザイク

サン・ヴィターレ聖堂のモザイク。中央黒の衣装をまとっているのが皇帝ユスティニアヌス1世

東ゴート人たちが信仰していたのは、ローマ帝国時代、325年のニケーア公会議で異端宣告を受けたアリウス派。イタリアにはアリウス派の教会がほとんどなかったため、テオドリックはラヴェンナにサンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂をはじめとするアリウス派のための教会堂を建築した。

サンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂

テオドリックの命で建築されたサンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂。正面のポルティコ(列柱部分)と右の鐘楼は後年増築された

ビザンツ皇帝にユスティニアヌス1世が即位すると、アリウス派を信奉する東ゴート王国と対立する。やはりゲルマン系の一派であるランゴバルド人を利用してイタリアに攻め込み、540年にラヴェンナを奪還。553年、東ゴート王国は滅亡する。

ユスティニアヌス1世はラヴェンナに総督府を置き、宗教都市として整備。アリウス派の教会堂を改修し、現在見られる教会群を建築・改修する。一方、ランゴバルド王国はイタリアに広く進出し、その多くを占領。たびたびラヴェンナにも進出して占領に成功する。

ローマ教会の要請を受けたフランク王国のピピン3世は、ランゴバルド王国を破ってラヴェンナを奪還。これを教皇に寄進する(756年、ピピンの寄進)。773年にはその息子カール大帝がランゴバルド王国を滅ぼした。

ピピンの寄進以後ラヴェンナはローマ教皇領となるが、都市としての重要性は失われ、急速に衰退。近郊のヴェネツィアやフィレンツェの繁栄の影に隠れ、小さな漁村にまで没落する。

 

しかしながらそのおかげでラヴェンナの教会群は破壊や増改築から免れ、「中世のポンペイ」といわれるように当時そのままの姿をいまに伝えることになる。
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