胃腸の病気/憩室症・憩室炎/虫垂炎・盲腸

大腸憩室炎の原因・診断・治療法【医師が解説】

【消化器病学会専門医が解説】大腸憩室症や大腸憩室炎は、日本でも増えている病気です。腹痛を起こし、いわゆる盲腸である虫垂炎と間違えられることもあります。大腸憩室症・大腸憩室炎の痛みなどの症状、原因、診断法、治療法、食事の工夫などの再発予防法について分かりやすく解説します。

染谷 貴志

執筆者:染谷 貴志

医師 / 消化器・肝臓の病気ガイド

大腸憩室とは……10人に1人はある腸管のくぼみ

医師

下腹部の痛み、発熱、これが、盲腸の痛みかと思ったら、実は大腸憩室炎だった……こんなこともあります

憩室とは、腸管の内壁の一部が外側に向かって袋状にとびだしたもの。内視鏡でみると、くぼみのようになっています。憩室の数はさまざまで、頻度は年齢とともに増加しますが、大腸検査を行うと10人に1人くらいの頻度で見つかります。大腸憩室が複数存在する場合、「大腸憩室症(だいちょうけいしつしょう)」と呼びます。

大腸は右下腹部より始まり上行結腸、横行結腸、下行結腸と腹部外周を1回りし、S状結腸、直腸、肛門で終わります。欧米の大腸憩室は、S状・下行結腸に多い左側大腸型で、多発例が多いといわれていますが、日本では上行結腸、盲腸に多い右側大腸型で、欧米に比べ多発例は少ないといわれていました。しかし現在は、食事の欧米化、加齢とともに、左側型、多発型が増加する傾向にあります。
 

大腸憩室炎とは

大腸憩室の合併症として炎症が起きたものを、「大腸憩室炎(だいちょうけいしつえん)」といいます。20~50歳では右側大腸の憩室炎が多く、高齢者ではS状結腸における憩室炎が多くなります。
 

大腸憩室症・大腸憩室炎の原因

大腸憩室症は以前は欧米人に多く、日本人にはあまりみられませんでしたが、最近は増加しています。特に都市部の人に多く、食事の欧米化、とりわけ食物線維の摂取量の減少と密接な関係にあると考えられています。日本人の場合、憩室は盲腸や上行結腸など、大腸の右側に多くできやすく、欧米人では大腸の左側に多いという傾向がありましたが、食事の欧米化や高齢化に伴い、日本でも大腸左側の憩室が増えています。

憩室には、腸壁そのものがとび出す「真性憩室」と、腸壁の筋層のすきまから腸粘膜がとび出す「仮性憩室」の2種類ありますが、大腸憩室症の場合にはほとんどが後者の仮性憩室。腸管の内圧の上昇に伴い、大腸壁の筋肉層の弱い部分(たとえば血管など)が腸壁を貫き、筋層が弱くなっている部分から粘膜が脱出して憩室が生じると考えられています。では、どうして大腸の内圧が上昇するのか。ここに、食生活が関わってきます。食生活の欧米化により肉食が増え、食物線維の摂取量が減少したため、便秘や腸管のれん縮が強くなり、結果として内圧が上昇すると考えられています。もうひとつ、憩室が出来る原因として、加齢による腸管壁の脆弱化があげられます。老化によって腸管の膜も弱くなるということですね。
 

大腸憩室症・大腸憩室炎の症状……強い腹痛・下痢・血便など

多くは無症状ですが、時に下痢、軟便、便秘などの便通異常、腹部膨満感、腹痛などの腸運動異常に基づく症状、つまり「過敏性腸症候群」に似た症状が起こります。過敏性腸症候群については、「過敏性腸症候群(IBS)の主な原因・症状」や「過敏性腸症候群(IBS)の診断法・治療法・予防法」をご参照ください。

合併症として大腸憩室炎が発症すると、その部位に限局した強い腹痛が生じます。また下痢、発熱、血便などを伴うこともあります。憩室炎は、憩室内に便がたまって起こるとされていますが、進行すると腸に穴があく穿孔、穿孔性腹膜炎、狭窄による腸閉塞などを生じることがあります。時に右側の上行結腸に起きた憩室炎の場合は、急性虫垂炎に似た症状のこともあり、実際、憩室炎と虫垂炎の判断がつかないまま、手術することもあります。手術までいかないとしても、普段、クリニックで診療していると、腹痛の患者さんを見る機会も多いわけですが、時に熱が出て、ちょっとお腹を触ると、とても痛がり、脂汗をかいているような方に出会います。で、痛みの場所が右下腹部であったりすれば、これは虫垂炎だろうと考えて、CTなどの検査が出来て、手術の設備が整った病院に紹介するわけです。このようなときも、CT検査をしたところ、憩室炎と判明して手術をしないで、点滴、抗生剤投与で改善したということも、何度かありました。

これまで大腸内視鏡検査や注腸検査で大腸に憩室があるといわれた方は、上記のような症状を起こす可能性もあるので、腹痛や下血で病院を受診した際には、大腸憩室があると、さらにわかればどこの部位にあったかを医師に伝えるよにしてください。
 

大腸憩室症・大腸憩室炎の検査・診断法

多くの場合は検査で偶然発見されます。注腸検査、大腸内視鏡検査、胃バリウム検査後の造影剤遺残などにより偶然発見されることが多く、発見頻度は10%前後で加齢とともに増加します。憩室炎を起こしているときは、腹部CT検査や超音波検査で憩室の存在や憩室炎を診断できることもありますが、下部消化管の検査は治療によって症状がなくなってから、注腸造影検査や大腸内視鏡検査を行って診断を確定します。
 

大腸憩室症・大腸憩室炎の治療法

大腸憩室症は放置して特に問題となる病気ではありません。たとえ憩室がたくさんできていても、症状がなければ治療は必要ありません。合併症である憩室炎を起こした場合でも、通常は安静、抗生剤投与などの内科的治療で改善します。また、大腸憩室からの出血も、多くは間欠的な出血で7~8 割が自然に止血します。もし出血量が多い場合や、出血をくり返す場合には、大腸内視鏡による止血処置を行うこともあります。また穿孔、腹膜炎、狭窄などを起こした場合や大出血で止血困難な場合は外科的治療が必要となります。
 

大腸憩室症・大腸憩室炎の予防法・再発予防法

大腸憩室症があっても、日常生活の特別な制限はありません。ただ、比較的線維分の多い食事の摂取を心がけるとともに、便秘をしないよう便通のコントロールを行うことも大切です。

また、残念ながら、憩室炎の発生を予防する方法はありません。ただ重症化しないための予防策はあります。お腹が痛くなったらすぐに、炎症が軽いうちに、食事を止めて水分だけにして、早めに抗生物質を飲むことです。ただし、これももともと大腸憩室があると分かっているときにできる対応ですので、予防のためにも一度は注腸検査もしくは大腸内視鏡検査をしておくほうがいいかもしれませんね。
 

大腸憩室症・大腸憩室炎と大腸がんの関係

なお、心配される方も多いのですが、大腸憩室が癌化することはありません。しかし大腸憩室がある方は、大腸ポリープ、大腸癌が多いとは言われています。これは、どちらの病気も大腸憩室の原因と共通する、線維不足が原因のひとつとなって起きるからです。日ごろから食生活を工夫するなどして、腸の健康を守っていきましょう。
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